Banjoのひとりごと22                 Banjoのひとりごと23

鯖・鯖・酒街道
 

何年か続けて五月の連休に小浜を訪ねた。
目的地は小浜ではないのだが、丹後へ唄いに行く途中に、どうしても立ち寄るのだ。
それには、どうしてもと言わなければならないほどの理由がある。
ここは小さな町なので何度かくると、どこに何があるのか、直ぐに判ってしまう。
近頃は、やたらに町を歩き回らず、目的だけを果たして通過するようになってきた。

丹後に唄いに行きだしたのが誰の紹介であったか良く覚えては居ないのだが、
『丹後ブルーグラスフェスティバル』
が始まったときに、ゲストとして呼んで貰ったのがきっかけである。
毎回、寝るところは確保していただいているが、野外コンサートなので食料の調達が必要となる。
食料と言うより、酒の肴という方が正しいかも知れない。

まず往き道、朽木で鯖鮨を買う。
志賀町から小浜に向かって走ると、道路の反対側に店が見えてくる。
車が止めにくい。少し前までは、こぢんまりした店であったが、最近は隣に
『無料休憩所』
等という檜の建物が建った。見ると
『どうぞこちらでご賞味下さい。』
と書いてある。商売熱心なものだ。そんなものが建てられるくらいだからさぞかし稼いでいるのだろうと思う。
熱心に働いているのだから、このくらいなんの不思議でもない。
「忙しいですか?」
行く度に尋ねると、親父は決まって、鯖鮨をこさえながら、
「この連休は毎日六百程売りました。」
と笑って答える。この不景気な時代に、何とも清々しい答えだ。
ここの鯖鮨は、鯖のつけ込みが強すぎず、半生の状態で食すことが出来る。
商売熱心も結構だが、忙しすぎて味が落ちぬようにして貰いたい。

(このひとりごとを書いて2年ぶりに丹後のフェスに参加した。往き道に懐かしくこの寿司を2本購入したが
残念ながら、以前のそれではなかった。感動は何処かへ消え失せていた。値段が高くなっていた分だけ、怒りは大きかった。
商売繁盛とは、伝統を守る事と見た。時流でテレビに紹介されて大騒ぎになり、その時限りのお金儲けはバブルに過ぎない。
昨年亡くなったハクレイ酒造のおばあちゃんが言っておられた
「酒造りは人づくり」
が心に沁みる。
美味しいものを紹介するのが、ひとりごとの本来の目的ではありません。
と言って美味しくないものをさも美味しそうに紹介する事も出来ません。
従って店名を伏せる事にしました。
ただし、僕がこの店で鯖鮨を買う事は二度とありません。)

京都の出町柳から小浜に通じるこの道を
『鯖街道』
と呼ぶからであろう、最近は鯖鮨屋が沢山店を出している。色々な店のものを食べてみて、自分の好みのものを探せばよい。
余談ではあるが『鯖なれ鮨』も旨い。

鯖鮨を持って小浜まで走り、今度は
『鯖の浜焼』
を手に入れる。
私は鯖が好きだ。
以前、小浜商店街で浜焼を買って食べてから、大の付くほどの好物である。 
私はこの二品に、ハクレイ酒造の純米酒があれば、なにも言うことが無い。
『丹後三種の神器』
と名付けている。

最初の頃何年かは、店の前に浜焼をずらっと並べた、いかにも専門店と思われるところのものを食べていた。
一〜二度来てそろそろ飽きだした頃から気にはなっていたのだが、そこの店の向かいに、何時も閉まっている浜焼屋河村商店があった。
確か三度目であったと思う。何かの都合で出発が早まり、九時三十分頃に小浜に着いた。
どんなに急いでも、鯖鮨と浜焼は忘れない自分が妙に愛おしい。
いつもの商店街に辿り着くと、何時も閉まっていた向かいの店が開いている。
もうもうと立ち上る煙。香ばしい薫りはいつものそれではなく、炭焼き独特の薫りだ。
焼き上がりを見てももカラッとしている。旨そうだ。同じ値段なら、誰もがこちらを選ぶであろう。
私もそうした。
丁寧に包装してくれる間に、何時も閉まっている理由を聞くと、炭焼きをするには技術が要り、親父一人ではある程度しか焼けないとのこと。
売り切れ御免は十一時頃であるという。
「息子も手伝っているが、まだまだお父さんにはかないませんわ。」
片腕のない親父が、頑固そうに炭に向かう。
「息子にしっかり焼き方を伝えてくださいね。」
と言ったら、嬉しそうに笑っていた。
何故片腕が無くしたのか気になるところだが、浜焼の味には関係がないので聞かないことにしている。

会場に着くと、地元応援団の
『宮津少年倶楽部』
のメンバーが食事を作ってもてなしてくれる。バーベキューの年があったりもしたが、最近は黄瀬さん夫妻の
『ちゃんちゃん焼き』
が続いている。これも旨い。野外で食べるとことのほか。
夕食前に、ハクレイの酒を飲みながら、浜焼きで一頻り盛り上がる。
唄うことを忘れないように飲むのが一苦労である。
皆でで突くと、浜焼はあっという間になくなってしまう。
それを見越して、二〜三本買うことも出来るが、丹誠込めて焼いたものを、その様な食べ方をするものではないと思っている。
一度この浜焼を使ってちらし寿司を作ってみたいと思っているが、それも未だ叶わない。

それにしても炭の力は恐ろしいほど素材の持ち味を引き立てる。そのまま食すも良し、山葵醤油で食すもまた良い。
焼きたても旨いし、少し冷めても、さらに冷え切ってもその旨味と薫りは、その時々にそれぞれの表情を見せてくれる。

幾ら数が焼けても、ガスではこうはいかない。