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手引き書
 

いつ頃までだろう?
昔は喫茶店でもタクシーでも
『愛想が悪い。』
と言われた時代があった。
喫茶店のウェートレスがふくれっ面でバンッ!!と水を置いたり、
行き先を告げても返事もしないようなタクシーが横行していた時代があった。

いつ頃からだろう?
喫茶店やタクシーに限らず、みんな愛想が良くなったのは・・・・。
恐らく
『マニュアル』
と言うのが出来てからの事だろうと思う。

本来サーヴィス業は、経営者自ら接客をするものである。
従ってそのサーヴィスに準ずる利益を得る事が出来るものである。
前に書いたようなサーヴィスでは、家でお茶を飲む方がうんと気持ちがいい。
(家のサーヴィスがもっと悪い方には申し訳ない。)
こんなままでは客離れは著しいと思った経営者が、どんなお客様にも最高のサーヴィスを出来るようにと、マニュアルを作った。
サーヴィス業専用人間の促成栽培である。

確かにマニュアル(手引き書)は確かに便利である。
実は僕もCOFFEE SHOPを経営したとき、マニュアルを大いに利用した。
COFFEEメニューを作るマニュアル。接客マニュアル。
開店当初は、従業員やアルバイトでも
『COFFEE SHOPで働くんだ!』
みたいな意識があったので、マニュアルは大いに役立った。
何年かしてやって来たアルバイトに驚かされるまでは。
私立D女子大学に通っているというアルバイトの女の子に
「ゆで卵の皮を剥いて置いておいて下さい。」
とお願いした。
随分長時間格闘していたので様子を見ると、彼女は指先から血を流しながら泣きそうになってゆで卵を剥いていた。
ゆで卵の剥き方を知らないのだ!指と爪の間に殻を突き刺して血を流している。
この子には早速お引き取り願った。僕の評は
「親が教えていないにも程がある!(怒)」
だった。
可哀想だがその子にとってCOFFEE SHOPは地獄であっただろう。
こんな人にはマニュアルは役立たない。基本が出来た上でマニュアルは役立つのだ。
その後も、ゆで卵はどこかで買ってくるものと思っていた人。救急車を呼ぶ電話番号を知らなかった人。次々とお引き取り願った。

今の世の中、サーヴィスが本当に良くなったのだろうか。
基本が出来ている人間なら、マニュアルが言わんとする事を理解する事も出来よう。
しかし、サーヴィス業に従事する人間全てがそうだとは思わない。
表面だけ良く出来ていたり、基本がないのにマニュアルを上手くこなす人間が多くいるだろう。
なにより問題はそんな人たちが出世して、下の人間を教えていると言う事だ。
まともなサーヴィスが末端の人間まで伝わるはずがない。

コンビニエンスストアのレジで間違った言葉遣いに腹立たしく想っている人は、少なくともマニュアル世代ではないだろう。
携帯電話の機能が使い切れずに困っている方が、マニュアルに沿って使った結果、高額を請求されるより良いと思う。
そんな我々には、これからどれほどおかしな文化が生まれてくるのかが大きな悩みの種である。
もうそろそろみんなが気付かなくてはならない時期なのではないだろうか。

ところがサーヴィス業にとどまらず、マニュアル化されている事が、この国には多すぎる。政治、経済、交通、警察、音楽も含め様々様々・・・。

挙げ句の果ては
『愛する気持。』
までマニュアル化しようとしている。